進みたい路

進路説明会は体育館にて、親と生徒が一緒に参加する。進路指導の先生が一人の男子生徒を指して立たせ「今からダッシュしろって先生が言ったら、君は走るか?」と質問した。生徒は困惑した表情で返事ができない。先生はうなずいて生徒を座らせる。「そうだろう、無理だよな。どうしてかわかるか?それはどこまで走るかゴールがわからないからだ。目標もないのに走り出すことなんてできない。君たちはまず、明確な目標を持て」

 

私は息子を授かるまで、老人ホームに長く勤めていた。たぶんずっとこの世界で働くだろうと考えていた。

息子が生まれて、状況は一変した。寝ている時以外は火がついたようにギャアギャア泣いてばかりの乳児期。動けるようになると、何かに突き動かされるかのように激しく動き回り、片時も目が離せない。同い年の友達はおしゃべりしたり、おだやかに遊ぶのに、息子はかんしゃくを起こしてばかりでみんなと遊べない。うちの子は何か違っている。いや、そんなことない、これは個性だと自分に言い聞かせるが不安でたまらない。だんだん外に出なくなり、自分がおかしくなっていくのがわかる。専門家に相談すればいいのはわかっている。でも相談すれば「障害児ですよ」と言われるのも解っている。そんなの受け止められない。

もう無理です、助けて下さいと保健センターに泣きながら電話するのに3年もかかってしまった。本当に孤独で辛い3年だった。「もう現実を受け入れて、現状を打破しよう」と心に決めてから、この子の成長にいいと思う事は思いつく限りやってやろうと決めて、仕事も障害者施設に変えた。

 

たくさんの人の温かい支えによって、何とか小学校生活を送っている今、いろんな事への感謝の気持ちを込めて何か自分にできる事はないかと考えているがどうしていいのかわからない。先生が言うところの「具体的な目標」がないからだ。自分だってまだまだ手探りで子育てしている。だけど、もし思いつめて悩んでいる人がいたら、勇気を出して声をあげれば必ずこたえてくれる人はいますと伝えたい。そして私も心からこたえる人になりたい。今の私にできるのは、ここにこう書くことだけ。